ワクチンで作られる抗体
ワクチンではどのような抗体が作られるのか?
現在、我が国で使用されているmRNAワクチンは、スパイク蛋白質に対する抗体(抗Spike蛋白抗体)を作るように設計されています。これは、S抗体と言って、スパイク蛋白に対する抗体(抗Spike蛋白抗体)です。この検査は、ワクチン抗体検査の中でも特殊な検査であり、新型コロナウィルスにかかったか否かを知る抗体検査ではありません。抗Spike蛋白抗体と中和抗体価は高い相関性を有していますので、この抗体の存在により中和抗体の存在を知ることができます。
千葉大学の研究では、ワクチンを2回目接種後、抗体が陽性となったのは1,774名 中1,773名(99.9%)で、強力な免疫抑制療法を実施していた1名を除いて全員が抗体陽性であったと報告しています。
この千葉大学が報告している抗体は、Elecsys Rの Anti-SARS-CoV-2Sで、中和抗体と高い相関関係を有しています。この抗体が15単位/ml以上あれば、ウィルスの中和抗体陽性的中率は99.1%と言われています。また、この抗体の存在の有無のカットオフ値は0.8単位/mlです。
抗体はどうして作られるか
mRNAワクチンの本質は、スパイク蛋白の設計図であるmRNAです。これが体内に入ると、私たちの身体で、その設計図をもとにスパイク蛋白が作られます。これを抗原とする抗体を作ることが、感染防御の基本です。その過程を簡単に説明すると、まず、抗原提示細胞が働いて、スパイク蛋白を抗原とするように指示します。そして、その情報を免疫未熟細胞に伝達し、免疫記憶細胞に成熟させます。免疫記憶細胞は、免疫実行細胞を増加させ、抗体産生を活性化させるのです(免疫プライミング効果)。そして、その状態で、再度抗原に暴露すると、さらに免疫機能が高まることが知られています(追加免疫効果:ブースター効果)。ブースター効果は、プライミングされた後、時間が経過すればするほど大きいと言われています。ワクチンを2回接種するのは、このプライミング効果とブースター効果の両方を期待するからです。
抗体価と感染の関係
中和抗体の抗体価は、通常そのウィルスの増殖抑制する最大血清希釈倍数で抗体価を表示しますが、抗スパイク蛋白抗体の量(単位/ml)と中和抗体の抗体価は相関するので、抗スパイク蛋白抗体の量を抗体価と考えてもよいと思います。一般的に、抗体価が高ければ高いほど、感染防御能力は高いと考えられますので、この抗スパイク蛋白抗体量は、感染防御能力を示していると思います。だからと言って、抗体価が低いことが、深刻な感染防御能力が低下を意味しているわけではありません。抗体価は、抗原に暴露するとブースター効果で、すぐに増加することが知られていますので、感染に対する防御という点では、問題ないと思われます。
ワクチンを2回接種して抗体ができていれば安全か
ワクチンを2回接種した場合にはほぼ100%抗体が作られます。その量は、個人差があります。もちろん、多ければ多いに越したことはありません。その方が感染防御がより強いからです。ただし、ワクチン接種を終えていても、新型コロナウィルスのPCR検査が陽性になる場合があります。これをブレークスルー感染と言います。メディアで、よく取り上げられ、ワクチンを打っても安心してはいけない。感染予防は続けなくてはいけないと警鐘が鳴らされています。
米疾病予防管理センター(CDC)が次のような報告をしています。
「ブレークスルー感染(ワクチン接種完了から14日経過以降に陽性反応が出る感染)」に関してのデータ(2021年4月30日時点)です。有効性100%のワクチンは存在しませんが、2021年はじめから接種が進んだことで、新型コロナウイルスの感染拡大がうまく抑えられていることをCDCのデータは示しています。2021年4月末までにワクチン接種を完了した人は推定1億100万人。そのうち、46州にまたがる1万262人が、ワクチンを接種したにもかかわらず感染しました。そのうち、2725人は無症状であったとのことです。入院者は995人、死亡者は160人で、死亡年齢の中央値は82歳ということでした。死亡した人のうち28人は無症状、または死因が新型コロナウイルスとは無関係だったということです。つまり、本当に新型コロナウィルス感染で亡くなったのは132人ということなのです。CDCの調査対象となった2021年1月1日から4月30日のあいだは、米国全体で感染者数が高い水準で推移しており、4月24日から30日までの週の感染者は35万5000人でしたから、ワクチン接種をした人の感染者が1万人くらいであったということ、死亡者が130人くらいしかいなかったことは、ワクチンの効果を示していると言ってよいでしょう。
ブレークスルー感染の発生は予期されていたことです。これをもって、ワクチン接種をしても感染を防ぐことはできないと発言している人は、例外ばかり声高に説明し、本質を語らない人です。みんなが、ワクチンを打って、集団免疫が十分なレベルに達してしまえば、感染者数は減っていきます。それまでは、ブレークスルー感染が起きます。しかし、ブレークスルー感染はワクチン接種を完了した人例外的な現象であることも認識しなくてはなりません。そして、発症した場合でもウィルス量は少なく、重症になりにくいと言われています。
個人的見解
しかし、最近の感染力の強いデルタ株は、ブレークスルー感染が多いようです。ワクチン1回接種よりも2回接種の人の方がデルタ株への感染が少ないという事実を勘案すると抗体量と関連するのかもしれません。するとワクチン接種してからの経過期間が長くなると抗体量が減少し、ブレークスルー感染の起こりやすくなるのかもしれません。でも、万が一感染しても、すぐにブースター効果が働き、抗体量が増加するので、重症化しにくいのかもしれません。
ワクチン接種をしたのちに、別のタイプのワクチンをブースターとして打つと効果的ではないかという研究もあるようです。スパイク蛋白のわずかな変異に対応するために、少し異なった蛋白の抗体を作ることが有効なのかもしれません。
抗体価の経時変化
図は、当院で調べた方々の抗体量のグラフです。ワクチン接種を終了してからの経過日数(横軸)と抗体量(縦軸)の関係をグラフにしました。個人差はありますが、全員に十分な量の抗体が検出されました。年齢が高いほど、そして、接種してからの日数が多い方ほど、抗体価が少ない傾向がありました。
高齢では作られる抗体が少ないこと、接種してから日数が経過すると抗体価が減少することが知られています。抗体量が減少していても、また抗原に暴露するとブースター効果が働き、急速に抗体が増加することがわかっています。よって、接種後、日数が経過して抗体量が減っても、万が一感染した場合には、すみやかに抗体が増加することが期待できます。でも、いくつ以下ならば、デルタ株に対して予防効果が十分であるのかはわかっていません。でも、個人個人の時間経過をみるには、1-2か月経過してから、再検査をするとよいと思います。再検査の場合には、割引で6000円です。