新型コロナウィルスのワクチンの最新の話題
新型コロナのワクチンの話題
いま国内で接種が行われている米ファイザー社と独ビオンテック社のワクチン「コミナティ」、米モデルナ社のワクチンは、mRNAワクチンです。これは、SARS-CoV-2ウィルスの殻についているスパイクを構成するタンパク質(スパイク蛋白)の遺伝子情報であるmRNAだけを合成して、ポリエチレングリコールという脂質で包み込み、それを体内へ投与するワクチンです。投与されたmRNAは、タンパク質の設計図ですから、私たちの細胞は、それを基に、タンパク質を合成します。つまり、からだの中でスパイク蛋白が作られるのです。そしてそのスパイク蛋白に対する抗体が産生され、感染予防に役立つのです。
アストラゼネカのワクチンは、「ウイルスベクター」と呼ばれるタイプで、チンパンジー由来の一般的な風邪のアデノウィルスを弱毒化し、体内で増殖しないように処理をした上で、そのアデノウィルスにSARS-CoV-2ウイルス表面のスパイクタンパク質の遺伝物質を組み込んだものです。これも、同じように体内でスパイクタンパク質が形成され、その抗体が産生されて予防効果が生まれるのです。今、アストラゼネカのワクチンは、日本では使用されていませんので、ここでは説明は省きます。血栓症を引き起こすと心配されているのは、アストラゼネカのワクチンです。
米ファイザー社のワクチンは、新型コロナウイルスの発症を防ぐ効果が95%あると報告されています。米モデルナ社のワクチンは、発症予防効果が94.1%と報告されています。
このように、これらのワクチン接種により、SARS-CoV-2ウイルスの表面のスパイクタンパク質が体内で形成され、実際にSARS-CoV-2ウイルスに感染した時に、ウイルスを攻撃するような免疫システムが作られるのです。
ファイザーとモデルのナワクチン
新型コロナのワクチン接種が、活発化してきました。モデルナ社のワクチンとファイザー社のワクチンが我が国では使用されています。なんとなく、ファイザー社のワクチンが優れていると感じている方々が多いようです。2つのワクチンはいずれもmRNAワクチンというタイプのワクチンです。これは、新型コロナウィルスの殻についている角の設計図の写し(mRNA)を、からだの中に投与することにより、生体内でウィルスの角だけが作られ、その角を異物として認識した生体が、その異物に対して抗体を作ることが、このワクチンの基本原理です。つまり、ウィルスの角に対する抗体が、ワクチンの成果なのです。そしてこの2つのワクチンの違いは、その投与量にあります。ファイザーのワクチンは30㎍、モデルナのワクチンは100㎍を投与します。モデルナワクチンは副反応が多いと言われていますが、副反応の起こりやすさはワクチンの投与量と関係があると思われます。
ファイザー製のワクチンの保管温度は、−75℃(±15℃)です。この温度管理には、細心の注意が必要です。普通の医療施設では、−75℃の冷凍庫は常備していないからです。一方、モデルナ社製のワクチンの保管温度は−20℃(±5℃)です。これは、通常の医療機関ならば常備している冷凍庫で対応可能です。どちらもmRNAと呼ばれるタイプのワクチンで、構造が壊れやく、振動や衝撃に弱い物質です。低温に保たれなければ、効果がなくなってしまうというデリケートなものです。
ファイザー製のワクチンはディープフリーザーで保管されたのちに、約1,000回接種分を1単位として、トラックなどで保冷ボックスとドライアイスを利用して輸送します。このワクチンのために開発された真空断熱保冷ボックスは、ドライアイスの詰め替えにより-70度以下に約10-18日程度保つ機能があり、それにて保管可能とされています。モデルナ製ワクチンは、ディープフリーザーで保管されたのちに100回接種分を1単位として届け、通常の冷凍庫の温度で10日ほど保管できます。温度管理は、ファイザー製のワクチンの方が厳格ですが、フリーザーや保冷ボックスの工夫により、どちらも安全に保管できる体制が整っています。
また、ファイザー製のワクチンは、接種するときに希釈して接種しますが、モデルナワクチンは希釈せずにそのまま接種できます。このような違いから、ワクチン保管、接種にいたるまでの手順は、ファイザー社製の方がより複雑であると言えます。よって、ヒューマンエラーはファイザーの方が起こりやすいかもしれません。
新型コロナワクチンは新型コロナウイルスの変異株にも効果あり
一般論として、ウイルスは絶えず変異を起こしていくもので、小さな変異でワクチンの効果がなくなるというわけではありません。また、米ファイザーのワクチンでは、新型コロナウイルスの変異株にも作用する抗体が作られた、といった実験結果も発表されています。ただし、一部の新型コロナウイルスの変異株についてはワクチンの効き目が低下することを示唆する報告もあり、データの蓄積やワクチンの改良が進められています。
B.1.1.7変異体(イギリス)による感染に対するワクチンの推定有効性は、2回目の投与後14日以上で89.5%(95%信頼区間[CI]、85.9〜92.3)。 B.1.351(南アフリカ)変異体による感染に対する有効性は75.0%(95%CI、70.5〜78.9)でした。感染による重症、重篤、または致命的な疾患に対するワクチン有効性は非常に高く(97.4%(95%CI、 92.2~99.5%)ことも報告されています(NEJM May 10)。
また、モデルナ社のワクチンを2回接種した患者に、3回目の追加接種によってガンマ株(ブラジル)やベータ型(南アフリカ)の変異株に対する抗体が多くなることが確認されたそうです。
変異株への効果、株やワクチンの種類で差がある
変異の種類や、ワクチンの種類によっては、効果が下がる場合もあります。
世界保健機関(WHO)が、「懸念される変異ウイルス」として挙げているのは、英国で最初に見つかった変異ウイルス(アルファ株)や、南アフリカで最初に報告された変異ウイルス(ベータ株)、ブラジルや日本で報告された変異ウイルス(ガンマ株)です。
米CDCは、ワクチンを接種した人の血液を使って変異株への効果を調べる実験の結果などから、ワクチンの効果の低減は、南ア株がもっとも大きく、次いでブラジル株で、英国株はワクチンへの影響は一番小さいだろうとしています。
影響は、ワクチンの種類によっても異なります。CDCやWHOによると、米ファイザー社や米モデルナ社のmRNAワクチンは、アルファ株に対しても、ベータ株でも、あまり効果が落ちませんでした。アストラゼネカ社のワクチンは、ベータ株に対し、効果が落ちるという結果でした。
アストラゼネカ社が南アフリカで実施した小規模な臨床試験では、軽症~中等症の症状を防ぐ効果は約10%にとどまっていました。ただし、WHOは、重症化を防ぐ効果が落ちたかどうかはまだ不明として、南アフリカ株の流行している地域でも、アストラゼネカ社製のワクチンの接種を推奨するとしています。
ワクチンメーカーはすでに、変異株に対してより効果の高いワクチンの開発を始めているそうです。
デルタ株(いわゆるインド株)には「L452R」と「E484Q」という2つの特徴的な変異がみられ、特に、L452R変異は、日本人の6割が持つ白血球の型「HLA(ヒト白血球抗原)―A24」がつくる免疫細胞から逃れる能力があるそうです(日本人に感染しやすい)という実験結果が発表されています(東京大や熊本大などの研究チーム「G2P―Japan」)。
変異株に対するファイザーのワクチンの効果
日本の報告
5月11日に、横浜市立大学の 山中竹春 教授、梁 明秀 教授、 宮川 敬 准教授、加藤 英明 部長らの研究チームは、ワクチンの効果について次のように発表しました。
日本で接種が行われている、ファイザーのワクチンは、従来株のほか、様々な変異株に対しても中和抗体の産生を誘導し、液性免疫の観点から効果が期待できるそうです。
その内容の要旨は以下の通りです。
1. 日本人のワクチン接種者111名(未感染105名、既感染6名)を対象に、ファイザー製ワクチンの有効性について、中和抗体(液性免疫)の保有率という観点から調査。
2. 独自の迅速抗体測定システム「hiVNT新型コロナ変異株パネル」を活用して、従来株および変異株7種の計8株に対する中和抗体を測定。
3. 未感染者でワクチン2回接種した人のうち、99%の人が従来株に対して中和抗体を保有していた。流行中のN501Y変異を有する3つのウイルス株(英国、南アフリカ、ブラジルで初めて確認された株)に対しても、90~94%の人が中和抗体を有していた。
4. 懸念されているインド由来の株に対しても中和抗体陽性率が低下するような傾向は見られなかった。
5. 計8株すべてに中和抗体陽性であった人は全体の約9割(93/105; 89%)であった。
6. 中和抗体の上がり方については個人差が見られた。特に1回接種のみでは、変異株に対して中和抗体が産生されない人が一定数存在した。
海外の報告
インド変異株(デルタ株)は、感染力が強く、警戒すべきウィルスとされています。Lancet誌の6月14日号は、ファイザー社製ワクチンを2回接種した場合の新型コロナウィルス感染抑制効果は79%と、イギリス変異株(アルファ株)に対する92%の効果と比べると少し低いもけれど、十分な効果があると報告しています。
またイングランド公衆衛生庁も6月14日に査読前のデータを公表しています。これによると、ファイザー社製のワクチンは、デルタ株ウイルスによる入院を、2回接種後は96%、1回接種でも94%、減少させたとしています。また、同庁は5月22日にもデータ(査読無し)を公表しています。これは、昨年10月から今年5月までに同国でアルファ株の感染が確認された11612人と、デルタ株(B.1.617.2)への感染が確認された1054人を解析したもので、ファイザー社製ワクチン2回接種の発症予防効果がアルファ株に対しては93.4%であったのに対して、デルタ株に対しては87.9%であったと報告しています。
一方、1回接種のみの効果は、アルファ株とデルタ株に対して、それぞれ51.1%と33.5%でした。デルタ株に対する対策としては、2回接種を行うことが重要であることが示唆されています。
6月3日のLancet誌によると、ファイザー社製のワクチンを2回接種した人における中和抗体(ウイルスの感染を抑える抗体)の量は、従来型のウイルスに比べるとアルファ株に対しては2.6分の1に低下、デルタ株に対しては、5.8分の1になっています。また従来型ウイルスに対しては1回接種でも多くの人で十分な量の中和抗体が出来るが、デルタ株に対しては2回接種が必要なことを示唆しています。
南アフリカ変異株(ベータ株)に関しては、5月5日にはカタールから重要な論文が報告されました。
Effectiveness of the BNT162b2 Covid-19 Vaccine against the B.1.1.7 and B.1.351 Variants | NEJM
同国では、アルファ株に加え、ベータ株も拡大しています。ファイザー社製のmRNAワクチンの効果を調べたところ、アルファ株に対しては、他の報告と同様に高い効果(2回目接種2週以降で89.5%)が見られていますが、ベータ株に対しては、75%と低下していました。これは後述する試験管内での実験結果と一致しています。一方、重症化を防ぐ効果は、変異の種類に関わらず97.4%と非常に高い効果が報告されています。