パンデミック終焉へのカウントダウン
オミクロン株とは
オミクロン株とは、2021年11月24日に南アフリカから報告された新型コロナウイルス変異株です。WHO(世界保健機関)はこのB.1.1.529系統の変異株をギリシャ文字順に「オミクロン」と名付け、「懸念される変異株 (Variant of Concern; VOC)」に分類しています。VOCとは、
1. 感染性が高い、
2. 病毒性が高い、
3. 公衆衛生対応や、診断・治療において困難を生み出しうる可能性がある、
4. ワクチンの効果が減弱する
のいずれかを有する公衆衛生上、懸念される変異株です。オミクロン株は、1と4に該当します。
オミクロン株に対するワクチンの効果
ファイザー社は2021年12月8日に、次のような報告をホームページで行っています。
In vitroの予備研究において、ファイザー-BioNTech COVID-19ワクチン(コミナティ)の3回の投与は、オミクロン変異体(B.1.1.529系統)を中和することがわかりました。しかし、2回の投与では中和力はかなり低下していたことも判明しました。
データは、コミナティ(ファイザー社ワクチン)の3回目の投与により、オミクロン変異体に対する中和抗体価が2回の投与の25倍に増加することを示しています。しかし、従来株と同じような感染防御効果は期待できません。感染を予防する効果は少ないです。とはいっても、CD8⁺T細胞によって認識されるスパイクタンパク質のエピトープの80%は、オミクロン変異体の変異の影響を受けないので、ワクチンの2回の投与でも重症化を防ぐ効果はあると考えられます。ワクチンを接種している方のほうが、死亡率は少ないということが明らかになっています。ファイザー社はオミクロン変異体に対するより効果的で、持続時間が長いワクチンの開発を進めているそうです。
Pfizer and BioNTech Provide Update on Omicron Variant | Pfizer
薬の効果
オミクロン株においては、抗原性の変化により、SARS-CoV-2に対するモノクローナル抗体を用いた抗体医薬品の効果への影響も懸念されています
オミクロン株の分離ウイルスやオミクロン株で認めるスパイクタンパクの変異を持つ疑似ウイルスを用いたモノクローナル抗体による中和試験の暫定結果が報告されています。つい最近わが国でも承認された薬、ソトロビマブ(ゼビュディ)は、オミクロン株で認めるスパイクタンパクの変異を持つ疑似ウイルスに対して中和活性を維持しているそうです。ラゲブリオカプセル200mg(一般名:モルヌピラビル)も経口薬としてオミクロン株に効果があるといわれています。
一方で、抗体カクテル療法として注目を浴びたカシリビマブ・イムデビマブ(ロナプリーブ)は、オミクロン株の分離ウイルスに対して中和活性を失っているそうです。
バムラニビマブ・エテセビマブ、チキサゲビマブ・シルガビマブも、オミクロン株で認めるスパイクタンパクの変異を持つ疑似ウイルスに対しての中和活性はないということです。
また、オミクロン株は、一度かかっても、再び感染する再感染リスクが、今までの株よりも高いことが指摘されています。
オミクロン株の特徴
マサチューセッツ州ケンブリッジのVenkySoundararajanたちの研究者グループが、次のような発表をしました。オミクロンの変異は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)と一般的な風邪を引き起こすコロナウイルス(HCoV-229E)に同時に感染した宿主の中で起きた可能性がある。オミクロン株は、HCoV-229Eと同じ遺伝子コードを共有しているそうです。今までの新型コロナウィルスの変異株では、このような共有現象はなかったとのことです。
つまり、新しい変異株は、普通の風邪ウィルスと新型コロナウィルスの混血児のようなものなのでしょう。研究者たちは、オミクロンがSars-CoV-2およびHCoV-229Eに「同時感染」した個体で変異が生じたと推察しています。彼らは、患者の胃腸組織と呼吸器組織で2つのウイルスを検出したそうです。彼らは、「ゲノム相互作用」、つまり遺伝物質の交換が生じて、オミクロン株が出現したのではないかと述べています。
そのために、オミクロン株は「人間の宿主により容易に入り込みやすくなり」、我々の免疫システムをすり抜ける能力が高くなった可能性があるのではないかと推察しています。
彼らはまた、オミクロン株の遺伝物質を、伝染性が高く世界中に蔓延した他のSars-CoV-2変異体(デルタ変異体を含む)と比較しました。彼らは、オミクロン株が26の変異を有していることを突き止めました。
参考文献VenkatakrishnanAJ,AnandP,LenehanPJ,SuratekarP,RaghunathanB,NiesenMJM,SoundararajanVOmicronvariantofSARS-CoV-2harborsauniqueinsertionmutationofputativeviralorhumangenomicorigin
オミクロン株は今までのコロナとは違って軽い?
英国の報告では、オミクロン感染者はデルタ感染者より、病院にかかるリスクが20〜25%、一晩以上入院するリスクは40〜45%低いそうです。また別の報告は、オミクロンはデルタに比べて入院するリスクが3分の2低下しているとしています。デンマークからの報告でも、オミクロン感染者の0.6%が入院したのに対し、他の変異株の感染者の入院は1.6%であったそうです。
また1月19日時点の沖縄からの報告では第6波の11,673名の陽性者のうち380名(3.3%)が入院されており、酸素投与以上が受けられているのは87名(0.8%)でした。
ただし、軽症(肺炎所見なし)の方も「基礎疾患(糖尿病など)を増悪させたり、合併症(心筋梗塞など)を併発している方もいました
、全身状態不良の高齢者が多数入院している。また、妊婦や透析など医療依存度の高い若年者も少なくない」とのことです。つまり、肺炎以外の基礎疾患の悪化や他の合併症で入院が必要になるケースがあるということになります。
入院率については以下の理由から慎重に解釈する必要があり、安易に「オミクロン株は重症化しないから感染しても問題ない」と考えるのは危険です。
入院率の低下が、純粋にオミクロン感染の重症度の低さか、過去の感染やワクチンの効果かが不明であること
肺炎や呼吸器関連所見が軽度でも、合併症の併発や基礎疾患の増悪を来たす可能性があること。からの報告では、「オミクロン感染者はデルタ感染者より、病院にかかるリスクが20〜25%、入院するリスクは40〜45%低い」という結果になりました。またエディンバラ大学からは、11月1日から12月19日までの入院データを参考にオミクロンはデルタに比べて入院するリスクが3分の2低下していると発表され、デンマークからの報告でも、オミクロン感染者の0.6%が入院したのに対し、他の変異株の感染者の入院は1.6%であったとしています。
また1月19日時点の沖縄からの報告では第6波の11,673名の陽性者のうち380名(3.3%)が入院されており、酸素投与以上が受けられているのは87名(0.8%)でした。
ただし、軽症(肺炎所見なし)でも、「基礎疾患(糖尿病など)を増悪させたり、合併症(心筋梗塞など)を併発しており、全身状態不良の高齢者は、多数入院しているそうです。また、妊婦や透析など医療依存度の高い若年者も少なくない」とのことです。つまり、肺炎以外の基礎疾患の悪化や他の合併症で入院が必要になるケースがあるということになります。それらは、コロナでは重症ではないが、患者は重症であるという意味です。
入院率については以下の理由から慎重に解釈する必要があり、安易に「オミクロン株は重症化しないから感染しても問題ない」と考えるのは危険です。
入院率の低下が、純粋にオミクロン感染の重症度の低さか、過去の感染やワクチンの効果かが不明であること
肺炎や呼吸器関連所見が軽度でも、合併症の併発や基礎疾患の増悪を来たす可能性があること。
入院治療が必要な患者の割合が、従来の変異株よりも少ないという報告がイギリスと南アフリカから出ました。どちらの研究でもオミクロン株感染による入院はデルタ株感染による入院よりも少ないことを示しています。英インペリアル・カレッジ・ロンドンのオミクロン株分析でも、同株による感染では、症状がデルタ株よりも軽いことが示唆されています。これは、既感染やワクチン接種の有無という因子で調整しても同様な傾向を示していたそうです。
「オミクロン株は肺炎を起こしにくい」という研究
欧米では、今のところオミクロン株による患者さんで酸素療法をどんどん投与しないといけないパニック水準にはないようです。詳細な報告を待たないと何とも言えないのですが、デルタ株と比べて肺炎例が多いというデータはなさそうです。
ヨーロッパで急速に患者数が増えてまだ2週間が経過していないため、今後肺炎の症例がたくさん出てこないかどうか注視が必要です。
実験室レベルでのデータがいくつかあります。たとえば、ヒトの肺を用いてオミクロン株を感染させた香港の研究グループの実験によると、オミクロン株は従来株やデルタ株とは違って気管支で複製されやすいものの、肺ではさほど複製されないことが分かりました[i]。また、イギリスの別の研究グループにおいても、デルタ株と比較してオミクロン株では肺の細胞を傷害する度合いが軽いことが示されています。
従来株やデルタ株と比べて、オミクロン株は肺炎を起こしにくいといわれています。肺胞は酸素を取り込む重要な場所ですが、ここが障害されにくいと、中等症II以上になりにくいと言えます。オミクロンは肺炎を起こさないウィルスという理解でもよいと思います。
英ケンブリッジ大学も、オミクロン株は肺の細胞に入り込みにくいことを示しました。
統計データからわかること
ちなみに、統計データを見てみると、下記のような数字が見つかりました。ほかの国でオミクロン株が流行する前の新型コロナの感染者数と死亡者数を、最近の感染者数と死亡者数と比較することができます。イギリスでは、2021年の2月には1日に19658人の感染者が出て、同じ日の死亡者数は132人でした。乱暴な計算ですが、死亡者数を新規感染者数で割ると6.7%となります。フランスは、4月にピークを迎え、12.7%という数字になりました。南アフリカでは、3.3%でした。それが、今年の12月は、0.09%、0.18%、0.39%という数字になっています。過去のピーク値は、死亡者数が最も多かった日の数字であり、その時の新規感染者数を便宜的に分母にしただけなので、本当の意味の死亡率ではありません。しかし、かなり多くの方が死亡したということは間違いありません。それに比べると、最近の新型コロナの死亡率が極端に低くなっているということは明白です。これは、ワクチン接種が進んでいること、再感染の方が多いということも関連していると思いますが、オミクロン株自体が軽症化していることを示唆しているのだと思います。
多くの国で新規感染者が増加しているにも関わらず、規制強化をしないのは、軽症化しているという多くの状況証拠に基づいて、政策的な判断をしているのかもしれません。
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年月日 |
新規感染者数 |
死亡者数 |
新規感染者数(1週間平均) |
死亡者数(1週間平均) |
イギリス |
過去のピーク |
21/2/3 |
19658 |
1322 |
|
|
|
|
21/12/26 |
|
|
110018 |
103 |
フランス |
過去のピーク |
21/4/7 |
11130 |
1417 |
|
|
|
|
21/12/26 |
|
|
69685 |
132 |
南アフリカ |
過去のピーク |
21/8/5 |
13646 |
458 |
|
|
|
|
21/12/26 |
|
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16303 |
64 |
NHKニュースより(2022年2月2日)
北欧のデンマークは2月1日、公共の交通機関でのマスクの着用など新型コロナウイルスの規制をほぼ撤廃しました。ヨーロッパでは、イギリスなども規制を段階的に緩和していて、新型コロナとの共生を目指す動きが徐々に広がっています。
デンマークでは、変異ウイルスのオミクロン株のうち、「BA.2」と呼ばれる世界的に主流になっているのとは異なる系統のウイルスが拡大していて、一日の感染者が5万人を超える日も出ています。
ただ、重症者が少なく医療体制がひっ迫する状況にはなっていないほか、ワクチンを2回接種した人がおよそ80%にのぼっていることから、政府は2月1日、公共交通機関などでのマスクの着用や、レストランなどを利用する際のワクチンの接種証明の提示など、ほとんどの規制を撤廃しました。
首都コペンハーゲン市内の駅では、マスクを着用せずに行き交う人の姿が多く見られましたが、中にはマスクを着けて電車を利用する人もいて、介護の仕事をしている女性は「職場には、特別な介護を必要とする人が多くいるし、規制があっても感染している同僚もいます」と話していました。
ヨーロッパでは、ノルウェーも2月1日、新型コロナの規制をほぼ撤廃すると発表したほか、イギリスも段階的に緩和していて、新型コロナとの共生を目指す動きが徐々に広がっています。
楽観してはいけない
世界保健機関(WHO、本部ジュネーブ)のスワミナサン首席科学者は2021年12月20日、新型コロナウイルスの新変異株「オミクロン株」の感染が他の新型コロナと比べ、軽症となると結論付けるのは「時期尚早」と警告したと伝えられています。インペリアル・コレッジ・ロンドンの免疫学者、ピーター・オープンショー教授も、初期の兆候ではオミクロン株がそれほど深刻ではないことが示されていたとしつつも、まだ楽観すべきではないと警鐘を鳴らしています。
WHOはオミクロン株の重症化について、「まだ限られたデータしかない」として明確な判断は示していません。WHOのテドロス事務局長は同日、オミクロン株について「ワクチン接種を済ませた人が感染したり、新型コロナの感染後に回復した人が再感染したりする可能性が高くなっている」ので、一見軽症化しているように見えるだけなのだという解釈も公表しています。
最新のニュース(2022年2月2日)(毎日新聞のネットニュース)
オミクロン株が主流となっている新型コロナウイルスの感染拡大の「第6波」で、重症化率と致死率がデルタ株が中心だった「第5波」と比べて大幅に低下していることが明らかになった。2日に開かれた厚生労働省に感染症対策を助言する専門家組織「アドバイザリーボード(AB)」の会合で示された。ただ、ワクチンの接種歴がない場合は、いずれの数値も高い水準となっている。 ABで示された資料によると、2021年7~10月を第5波、22年1月1~14日(26日時点の集計)を第6波とした場合、感染した60歳以上の重症化率は5・0%から1・45%に低下した。60歳未満も0・56%から0・04%に下がったという。また、致死率も60歳以上は2・5%から0・96%に低下し、60歳未満は0・08%が0%となった。 今回の重症化率と致死率は、協力が得られた広島県などのデータを使って算出した。第6波は現在も続いており、今回のデータはあくまで暫定結果との位置づけだ。いずれもワクチン接種歴を問わないものとなっている。 また、接種を受けていない場合は、第6波でも60歳以上の重症化率は5・05%。致死率は4・04%と、接種歴のある人と比べて大幅に高いという。【矢澤秀範】
パンデミックの終焉
一般的に、ウイルスはより感染しやすく進化するにつれて、重症化を引き起こしやすい特徴を「失って」いきます。実際に、オミクロン株も徐々に軽症化しつつあるようです。どこで、このウィルスはもう弱毒化したと宣言すればよいのか?どんなに弱毒化しても、ウィルスには病原性がある限り、命を落とす事例はなくなりません。コロナを恐れることはないと声高に宣言するのは、医師が判断するよりも社会が決めるようなことかもしれません。今は、国によりその判断が少しずつ異なっています。世界中が同じような判断をするようになったときに、パンデミックは終わったと言えるのです。