デルタ株の擡頭
新型コロナウイルスの変異株
新型コロナウイルスの変異株について
一般論として、ウイルスは絶えず変異を起こしていくもので、小さな変異でワクチンの効果がなくなるというわけではありません。そして、現在、多くの変異株が報告されています。
現在、日本で見つかった「変異株」ウイルスの種類には、下記のものがあります。
イギリスで見つかった変異ウイルス……「アルファ株」 N501Y 懸念すべき変異株(VOC)
南アフリカで見つかった変異ウイルス……「ベータ株」 N501Y 懸念すべき変異株(VOC)
ブラジルで広がった変異ウイルス……「ガンマ株」 N501Y 懸念すべき変異株(VOC)
インドで見つかった変異ウイルス……「デルタ株」 懸念すべき変異株(VOC)、「カッパ株」 L452R 注目すべき変異株(VOI)
様々な国から報告がある変異ウィルス……「イータ株」 注目すべき変異株(VOI)
ニューヨークで発生した変異ウィルス……「イオタ株」 注目すべき変異株(VOI)
様々な国から報告がある変異ウィルス……「エタ株」
ブラジル由来の変異株(P.2)→ゼータ株 注目すべき変異株(VOI)
フィリピンからの変異ウイルス……「シータ株」 N501Y 注目すべき変異株(VOI)
ペルーで広がっている変異ウイルス……「ラムダ株」
カリフォルニアで見つかった変異ウィルス……イプシロン株(減りつつある) L452R 注目すべき変異株(VOI)
コロンビアで見つかった変異ウィルス……ミュー株
インドで見つかった変異ウイルス「デルタ株」に更に新たな変異が加わった「デルタプラス」という変異種もあるそうです。
「ラムダ株」は「490番目のまったく違う新しいところに変異が入っていて、3~5倍くらいワクチンの有効性が下がるのではないか」(ニューヨーク大学の多田卓哉博士)とのことで、ワクチンが効きにくい変異株として危険視されています。
ミュー株はE484KやN501Yなどの変異が知られていますが、これらの変異はmRNAワクチンにより作られた抗体の効果を低下させます。ベータ株およびガンマ株では、E484Kの変異があることが知られていますが、これらの株はmRNAワクチンの単回投与に対して耐性があることがわかっています。しかし、デルタ株が広く蔓延している米国では、ミュー株はそれほど広がっていません。実際に 6月末にピークに達した後、米国でのミュー株の有病率は低下しています。この事実から、日本でもデルタ株を凌駕するような流行は来ないのではないかと考えている専門家もいます。
米ファイザーのワクチンでは、新型コロナウイルスの変異株にも作用する抗体が作られた、といった実験結果も発表されています。ただし、一部の新型コロナウイルスの変異株についてはワクチンの効き目が低下することを示唆する報告もあります。データの蓄積やワクチンの改良が進められています。
デルタ株に対するワクチンの臨床試験をファイザーとビオンテックが8月に開始するというニュースもあります。
アルファ株による感染に対するワクチンの推定有効性は、2回目の投与後14日以上で89.5%(95%信頼区間[CI]、85.9〜92.3)。ベータ株による感染に対する有効性は75.0%(95%CI、70.5〜78.9)でした。感染による重症、重篤、または致命的な疾患に対するワクチン有効性は非常に高く(97.4%(95%CI、 92.2~99.5%)ことも報告されています(NEJM May 10)。
また、モデルナ社のワクチンを2回接種した患者に、3回目の追加接種によってガンマ株やベータ株の変異株に対する抗体が多くなることが確認されたそうです。
BBCのファーガス・ウォルシュ医療担当編集長は、アストラゼネカワクチンとファイザーワクチンをそれぞれ1度ずつ接種する試験を行い、アストラゼネカワクチンを2度続けて接種するよりも、どちらかをファイザーとした方がより高い抗体価が得られたことを伝えています。またファイザーワクチンを2回接種した方が、最も高い抗体価が得られたと伝えています。
モデルナワクチンも、アルファ株に対しては1.2分の1、ベータ株、ガンマ株、デルタ株に対して、2.1~8.4分の1の中和効果に減弱するが、抗体作用は確認できたという報告がありますAngela Choi, Matthew Koch, Kai Wu, Groves Dixon, Judy Oestrei et al., Serum Neutralizing Activity of mRNA-1273 against SARS-CoV-2 Variants doi: https://doi.org/10.1101/2021.06.28.449914)
最近、どうしてデルタ株は、感染力が強いのかという疑問に答える論文が出ました(Viral infection and transmission in a large well-traced outbreak caused by the Delta SARS-CoV-2 variant - SARS-CoV-2 coronavirus / nCoV-2019 Genomic Epidemiology - Virological)。それによると、デルタ株は2020年に中国で流行したオリジナル株より増殖速度が速いため,潜伏期間は、従来株の平均5.6日に比べて3.7日であり、そのときのウイルス量は従来株の1260倍も多かったそうです。
変異株への効果、株やワクチンの種類で差がある
米CDCは、ワクチンを接種した人の血液を使って変異株への効果を調べる実験の結果などから、ワクチンの効果の低減は、南ア株(ベータ株)がもっとも大きく、次いでブラジル株(ガンマ株)で、英国株(アルファ株)はワクチンへの影響は一番小さいだろうとしています。デルタ株もワクチン効果の低減が認められています。
影響は、ワクチンの種類によっても異なります。CDCやWHOによると、米ファイザー社や、米モデルナ社のmRNAワクチンは、アルファ株に対しても、南アフリカ株(ベータ株)でも、あまり効果が落ちませんでした。アストラゼネカ社のワクチンは、南アフリカ株に対し、効果が落ちるという結果でした。現在、我が国で流行しているデルタ株は、残念ながら、ワクチンの効果は落ちているようです。デルタ株については、のちほど改めて解説します。
アストラゼネカ社が南アフリカで実施した小規模な臨床試験では、軽症~中等症の症状を防ぐ効果は約10%にとどまっていました。ただし、WHOは、重症化を防ぐ効果が落ちたかどうかはまだ不明として、南アフリカ株の流行している地域でも、アストラゼネカ社製のワクチンの接種を推奨するとしています。
ワクチンメーカーはすでに、変異株に対してより効果の高いワクチンの開発を始めているそうです。
インド株(デルタ株)には「L452R」と「E484Q」という2つの特徴的な変異がみられ、特に、L452R変異は、日本人の6割が持つ白血球の型「HLA(ヒト白血球抗原)―A24」がつくる免疫細胞から逃れる能力があるそうです(日本人に感染しやすい)という実験結果が発表されています(東京大や熊本大などの研究チーム「G2P-Japan」)。
日本の報告:ファイザーのワクチン
横浜市大の報告
5月11日に、横浜市立大学の 山中竹春 教授、梁 明秀 教授、 宮川 敬 准教授、加藤 英明 部長らの研究チームは、ワクチンの効果について次のように発表しました。(山中先生は、8月の選挙で、横浜市長に選出されました)
日本で接種が行われている、ファイザーのワクチンは、従来株のほか、様々な変異株に対しても中和抗体の産生を誘導し、液性免疫の観点から効果が期待できるそうです。
その内容の要旨は以下の通りです。
1. 日本人のワクチン接種者111名(未感染105名、既感染6名)を対象に、ファイザー製ワクチンの有効性について、中和抗体(液性免疫)の保有率という観点から調査。
2. 独自の迅速抗体測定システム「hiVNT新型コロナ変異株パネル」を活用して、従来株および変異株7種の計8株に対する中和抗体を測定。
3. 未感染者でワクチン2回接種した人のうち、99%の人が従来株に対して中和抗体を保有していた。流行中のN501Y変異を有する3つのウイルス株(英国、南アフリカ、ブラジルで初めて確認された株)に対しても、90~94%の人が中和抗体を有していた。
4. 懸念されているインド由来の株に対しても中和抗体陽性率が低下するような傾向は見られなかった。
5. 計8株すべてに中和抗体陽性であった人は全体の約9割(93/105; 89%)であった。
6. 中和抗体の上がり方については個人差が見られた。特に1回接種のみでは、変異株に対して中和抗体が産生されない人が一定数存在した。
抗体価の時間的な推移
藤田医科大学は新型コロナウイルスワクチン(ファイザー社)を接種した後に生成された血液中の抗体価の調査結果を8月25日に発表しました。行っています。その結果、抗体価は、3ヶ月後に、2回目接種直後に比べて平均で、約1/4に減少したそうです。2回目のワクチン接種から時間が経つと、感染力が強いデルタ株などに対する発症予防効果が低下すると考えられており、3回目の接種(ブースター接種)の必要性を示唆する結果となっています。https://www.fujita-hu.ac.jp/news/j93sdv000000b3zd.html
デルタ株に対するワクチンの効果の報告
インド変異株(デルタ株)は、感染力が強く、警戒すべきウィルスとされています。Lancet誌の6月14日号は、ファイザー社製ワクチンを2回接種した場合の新型コロナウィルス感染抑制効果は79%と、イギリス変異株(アルファ株)に対する92%の効果と比べると少し低いもけれど、十分な効果があると報告しています。
また英国公衆衛生庁(PHE)が公表した、実際に接種した後の状況に基づく研究結果によると、発症予防効果に係るワクチン有効率は、アルファ株で約75%、デルタ株で約67%と報告しています。また、デルタ株による入院を予防する効果は約92%と報告しています。
一方、1回接種のみの効果は、アルファ株とデルタ株に対して、それぞれ51.1%と33.5%でした。デルタ株に対する対策としては、2回接種を行うことが重要であることが示唆されています。
6月3日のLancet誌によると、ファイザー社製のワクチンを2回接種した人における中和抗体(ウイルスの感染を抑える抗体)の量は、従来型のウイルスに比べるとアルファ株に対しては2.6分の1に低下、デルタ株に対しては、5.8分の1になっています。また従来型ウイルスに対しては1回接種でも多くの人で十分な量の中和抗体が出来るが、デルタ株に対しては2回接種が必要なことを示唆しています。
Science誌のニュース欄にショッキングな記事が掲載されました。そのニュースの要旨を紹介します。イスラエルはワクチン接種率が世界で最も高く、12歳以上の78%が完全ワクチン接種状態となっています(大部分がファイザー・ワクチン)。しかし感染者は、6,7月頃から急増し、2月中旬以来の高水準となっています。これは、ほとんどがデルタ株のためです。8月15日現在,重症または重篤な状態で入院している患者は525人だですが、そのうち60%が2回のワクチン接種を済ませていたそうです。ワクチンを接種してたのに重症化したのは、ワクチンの効果が時間経過とともに弱まったためではないか推測されています。本年1月に接種した人は、4月に接種した人と比較して,ブレイクスルー感染のリスクが2.26倍に増加していたと報告されています。(この報告は暫定的な報告で、検証されて正式に論文として発表されてはいません)。60歳以上で3回目接種(ブースター接種)をした人は,2回接種の人に比べて、入院する確率が半分になったという概算統計がありました。また、副反応についても,88%の人が3回目は2回目より軽いと答えていたそうです。このためイスラエルは,7月30日からに60歳以上(現在は50歳以上)の人を対象に3回目接種に開始しました。すでに100万人の人が3回目接種を受けましたが、それだけでデルタ株を抑え込むことはできそうにないみたいであるとScience誌は記載しています。Science. Aug 20, 2021.(doi.org/10.1126/science.373.6557.838)
やはり、他人との距離を保つこと。ワクチンを接種しても決して慢心しないことが重要で、感染対策は継続することが肝要であることが再確認すべきですね。
米国6州の医療従事者4217名を対象とし、35週間にわたって週1回のPCRを行い、ワクチンの効果を検証する研究がCDCから報告されました。対象者中3483名(83%)がワクチン接種を受けていました(ファイザー65%、モデルナ33%、J & J 2%)。デルタ株が50%以上を占めて優勢となった時点で、488名の未接種者では、43日間(中央値)で19件(3.8%)の感染があり、2352名の完全ワクチン接種者では、49日間(中央値)で24件(1.0%)の感染がありました。計算するとワクチンによる予防効果は66%であり,デルタ株が優勢になる前の数カ月間の効果の91%より低下していました。これはワクチン接種からの時間が経過したためなのか、あるいはデルタ株の影響なのか、その両者のためかが考えられます.観察週数が限られて感染者数が少ないために、断定的なことは言えませんが、参考になる話です.Morb Mortal Wkly Rep 2021;70:1167-1169.(doi.org/10.15585/mmwr.mm7034e4)