6月17日現在の状況を踏まえて(マスコミの報道偏重に惑わされないで)
6月17日現在の状況を踏まえて(マスコミの報道偏重に惑わされないで)
大規模な抗体検査の結果
6月16日に厚労省から、大規模な疫学調査の結果が発表されました(日本経済新聞ネット記事よりhttps://www.nikkei.com/article/DGXMZO60391960W0A610C2MM0000/)。
厚生労働省は16日、東京、大阪、宮城の3都府県で実施した新型コロナウイルスの抗体検査の結果を公表しました。過去に感染したことを示す抗体保有率は東京0.1%、大阪0.17%、宮城0.03%だったということです。しかし、この調査は、東京の場合、1400万人のうちわずか1971人を抽出して検査をして、わずか2人が抗体陽性であったというかなり乱暴な調査であることに注目しなくてはなりません。その中には、医療従事者や、過去に濃厚接触したが2週間全く発症しなかった方、海外渡航歴のある方も入っていたかもしれません。さらに、この2人という数字が、もう一回調査すれば1人になるかもしれませんし、3人になるかもしれません。1人ならば、0.05%です。あまりにも頻度が少ないので、誤差が大きくなるのです。
今回は、スイスロシュ社、米国アボット社の検査試薬を使用して、両者陽性となったものを真の陽性としたそうです。当クリニックで実施している検査は、スイスロシュ社の検査試薬を使用したものです。7950人のうち、スイスロシュ社の検査試薬で陽性になった人は、23人、米国アボット社で陽性になった人は23人、どちらも陽性であった人は、8人ということでした。つまり、どちらの検査試薬を使用した場合でも、その検査結果が陽性に出ても本当に陽性(もう一回別の方法で調べて陽性である)である確率は、34%に過ぎないということを意味しています。
マスコミの報道では、今回の疫学調査の結果から、実際の感染者数を乱暴に計算して、予想よりも多かったと言っています。これは科学的な分析ではありません。集団免疫を獲得していないので、第2波が大変になるという論調もあります。しかし、厚労省は、我が国では、新型コロナウィルス感染はほとんど発生していなかったと強調しているのです。言い換えれば、今までの死亡率が少ないとか、感染者が少ないというのは、検査をしなかったからではなくて、本当に少なかったのです。むろん、もっと検査をすればもう少し確認された患者数は増加します。
これからは、ハイリスク集団に検査をしてウィルス陽性者に対して対策をまめに行っていくことが大事です。ハイリスク集団とは、医療従事者と夜の街関連従事者です。
6月9日のソフトバンクグループの抗体検査の結果も参考になります。(日本経済新聞のネット記事よりhttps://www.nikkei.com/article/DGXMZO60178510Z00C20A6EA2000/)
それによると、0.43%が陽性であったという報告です。しかし、よく読んでみると、医療従事者が1.79%、そのほかの方々が0.23%という数字です。つまり、感染の心当たりがない低リスクの方々は、0.23%であったということです。この数字は、1000人中2.3人の陽性判定という意味です。陽性判定と抗体が存在するということは必ずしも同じではありません。抗体検査は偽陽性が必ずあるので、試薬の精度が問題になります。今、我が国で使える最も精度が高いといわれているスイスのロシュ社のものは、特異度が99.81%です。米国アボット社も精度が高いといわれていますが、スイスロシュ社と同じくらいの精度です。この2社でさえ、特異度は99.8%で、100%ではありません。
ここで、検査の的中率のことを説明しなくてはなりません。的中率というのは、検査で陽性が出たら、本当に抗体があるという確率を言います。99.8%の精度があるから、陽性に出れば、99.8%正しいとお考えになるのではないでしょうか?それは間違いです。
この特異度99.8%という数字を用いて、検査の的中率を計算してみましょう。
特異度99.8%というのは、1000人の抗体がない人に検査をすると、998人は陰性になるけれど、たった2人は陽性に出てしまうという意味です。ソフトバンクグループ社員の調査では、医療従事者の1.79%に陽性がでたということでした。1000人の医療従事者がいたら、そのうちの約18人に陽性が出たという意味です。でもその18人のうち2人は、抗体がないのに陽性に出てしまった可能性があるのです。抗体があるのは16人だけということになります。つまり、医療従事者の方が抗体陽性という判定が出たら、18人中16人が、本当の陽性ということになるのです。つまり、陽性的中率は、約89%ということになります。このソフトバンクグループのデータが我が国の実情であると仮定して、陽性的中率を計算してみましょう。
あなたが、医療従事者で、COVID19の診療現場に立ち会っている経験があれば、抗体検査で陽性という判定が出れば、あなたが抗体を持っている確率は約90%であるということです。一方、陰性であれば、抗体が存在しないということは100%正しいということになります。
厚労省のホームページより
もし、あなたがニューヨークに住んでいたら
米ニューヨーク州が実施した検査の抗体保有率は12.3%、スウェーデンのストックホルムは7.3%に達したという報道もありました。住民の抗体陽性率がニューヨーク州で14%であったという別の報道もありました(https://www.cnn.co.jp/usa/35152892.html)。有病率が14%では、検査の陽性的中率は高くなります。つまり、抗体検査で陽性であれば、98.6%の確率で抗体が存在すると言えます。